Insight EdgeでLead UI/UX Designerをしている千葉です。私は総合商社のDX案件でデザインを担当しています。DXとデザインはあまり関係なさそうですが、DX推進には欠かせない役割を担っていると感じています。DX推進にデザインをどのように活用するのか、デザイナーにはどのような役割があるのか、その効果は何か等のポイントをお伝えできればと思います。
目次
DXとは何か
まずはこの定義を示しておこうと思います。この記事を読まれている方は1,000回ぐらいお聞きになっていると思いますが、当社では以下のように説明しています。
「デジタルによる既存ビジネスの高度化」「デジタルによる新規ビジネスモデル創出」、この2つによってビジネスモデルを変革すること
デザイナー視点としては、ビジネスモデル変革の先にはユーザー(人々)がいることを考えると、「デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」と捉えています。この「浸透させること」とデザインがとても深く関係していますので、後述します。
DXが必要とされる背景
DXが必要とされる背景には、多様化していく市場の変化や労働力不足、消費者のニーズや価値観の変化などの「ビジネス環境の変化」が存在することにあると考えます。また、既存の市場がレッドオーシャン化して利益を上げにくくなってきているため、DXによって競争優位性を確立したいと考える企業が多いのではないかと思います。しかし、日本のDXはなかなか成功せず、成功率14%と各国平均30%より低い※1ですが、その理由としてICTへの投資額が低いこと※2、IT業務の内製化比率が低いこと※3によるITナレッジとデジタル人材不足が大きな理由として挙げられます。また、日本に限らず「DX=新たな市場を開拓する」と考えれば難易度が高いことによる失敗率が高いことも伺えます。DXが難しいことであるのは委細承知ではありますが、各社が取り組む必要性もあるということです。
デザインが必要とされる背景
DXが必要とされる背景と同様に、市場の変化がデザインのニーズを高めていると言えます。話をデザインに移しますが、デザインはプロダクトの見た目や形等の「有形」に対する意味が未だ根強いですが、考え方や体験、サービスなどの「無形」に対する意味も徐々に浸透しつつあると感じています。グッドデザイン賞を運営する公益財団法人日本デザイン振興会では、モノとコトのデザインとしてわかりやすく解説しています。モノが有形(Tangible)か無形(Intangible)かは問わず、
モノは「コトを成す手段」のひとつであり、コトは目的である。
出典:https://www.jidp.or.jp/ja/about/firsttime/whatsdesign
と説明しており、デザインに関しては、
「常にヒトを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する。」この一連のプロセスが我々の考えるデザインであり、その結果、実現化されたものを我々は「ひとつのデザイン解」と考えます。出典:https://www.jidp.or.jp/ja/about/firsttime/whatsdesign
と伝えてます。
言い換えると、デザインとは「ユーザー(ヒト)を中心に考え、その目的(コト)を手段(モノ)を通して計画し実現化すること」と言えます。
話は遡り、大量生産が可能になった高度成長期。電化製品の三種の神器であるテレビや冷蔵庫、洗濯機(モノ)はユーザー(ヒト)の生活を豊かに(コト)してきました。新しく便利なものが開発されれば売れる時代でしたが、リバースエンジニアリングによって同様の製品が市場に溢れ、機能や見た目のデザインを工夫して販売するも、最終的には価格競争に陥っていきます。モノがなかった時代からモノが溢れる時代へと変わることで、これまでとは違ったユーザーのニーズを理解し最適な価値を提供する時代へと変遷してきました。このような背景から、ユーザーに寄り添う「デザイン思考」が注目されています。デザイン思考とは、ユーザーのニーズを理解して課題を定義し、必要なテクノロジーを含めたビジネスアイディア創出とプロトタイプを行き来する、思考と試行を繰り返すプロセスです。これによって新しい製品やサービスを生み出し、課題解決につなげることができます。ポイントはユーザーのニーズを理解する際にユーザーに共感することです。ここで言う共感とは、相手と同じ感情を疑似体験することで、これによりユーザー理解が深まります。デザイン思考は、ニーズの変化が激しい今の時代に合った思考プロセスと言えます。
一方で、2018年には経済産業省と特許庁が共同で発表した「デザイン経営」宣言※4により、デザインへの注目が高まっています。デザイン経営とは、「有形」「無形」共に付加価値を高めるデザインを活用した経営手法のことで、ブランド力の向上とイノベーション力向上により、企業競争力向上に寄与すると説明しています。
このように、プロダクトの見た目や形等の「有形」のデザインに加え、市場やユーザーニーズの変化により注目されているデザイン思考や、政府が主導する「デザイン経営」によりデザインのニーズが高まっていると考えます。
DX推進にどのようにデザインを活用するか
DXの進め方や取り組み内容は業界業種の課題によって多様かと思いますが、当社ではDX推進プロセスを以下のように考えています。

ビジネスや業務における課題を設定し、打ち手や期待効果を踏まえて企画・実証実験を行うことで商用化に向けた様々な検証を行い、商用化に向けてプロジェクトを進めていきます。これらのプロセスで特に重要なのは「課題設定、アイディア想起」Phaseです。課題設定を間違えれば後段のプロセス全てが無駄になりますし、本質的な課題を見出すことは難易度が高いと言えるからです。このPhaseに前述のデザイン思考が活用できます。DX推進プロジェクト内の会話でも「本質的な課題を設定することが肝である」という会話をよく聞きますが、この「本質的な課題」はサービスや製品を利用するユーザーの中に必ずヒントがあります。ユーザーの観察やヒアリングなど、ユーザーに共感するプロセスを踏むことで、ユーザー理解が深まり課題が発見しやすくなると考えます。
また、DX推進プロジェクト内の議論においては、ビジネス視点での議論が多いですが、ユーザーを置き去りにした会話からは「本質的な課題」は見えにくいでしょう。個人的に肝要だと考えていることは、サービスや製品のユーザーを多く獲得できれば、ビジネスとして成立する可能性が高いということです。ユーザーが「使いやすい」「楽しい」「役に立つ」などと感じることでユーザー数は増え、そのことがビジネスインパクトや可能性を高めることに繋がります。注目を集めているサービスはユーザーに利便性を提供し、多くのユーザー数を獲得してビジネスを拡大させているのではないでしょうか。このように、ユーザー視点での課題設定やアイディア想起にはデザイン(デザイン思考)を活用することができます。
デザインとは「ユーザー(ヒト)を中心に考え、その目的(コト)を手段(モノ)を通して計画し実現化すること」なので、アイディアの実現化を見据えて企画することやプロトタイプ開発にもデザインを活用できます。
DXプロジェクトにおいて開発するプロダクトは、ユーザーがこれまで使ったことがない仕組みや技術を使う場合が多いため、ユーザーがその仕組みや技術を学習する必要があります。初期設定でとても手間がかかったり、途中で使い方が分からなくなり使用を止めてしまうユーザーも多いかもしれません。このようなことが起きないように、新しい仕組みや技術とユーザーを「気持ち良くつなぐ」コトがデザイン活用のポイントと言えます。
DX推進におけるデザイナーの役割とその効果
DX推進に必要な人材に関して、IPAが2020年5月に発表した「DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査」によると、以下7つに分けられます。
DXに対応する人材(呼称) | 定義 |
---|---|
プロダクトマネージャー | DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材 |
ビジネスデザイナー | DXやデジタルビジネス(マーケティング含む)の企画・立案・推進等を担う人材 |
テックリード | DXやデジタルビジネスに関するシステムの設計から実装ができる人材 |
データサイエンティスト | 事業・業務に精通したデータ解析・分析ができる人材 |
先端技術エンジニア | 機械学習、ブロックチェーンなどの先進的なデジタル技術を担う人材 |
UI/UXデザイナー | DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを 担当する人材 |
エンジニア/プログラマ | システムの実装やインフラ構築・保守等を担う人材 |
上記の通りデザイナーには「ビジネスデザイナー」と「UI/UXデザイナー」で求められる役割が異なります。
ビジネスデザイナーは、課題に対するアイディアを机上の空論で終わらせないように、DXプロジェクトで魅力的な企画に具体性を持たせて推進させます。UI/UXデザイナーは、具体的なプロダクトのユーザー要件整理や設計を行い、より魅力的なモノに磨き上げて目的達成を目指します。また、開発するモノはデジタルプロダクトが多いので、リリースして完了ではなくユーザーの声を聞き継続的に改善していくことも必要です。
DXプロジェクトに関わらず、サービスやプロダクト開発(モノ)にデザイナーが必要な理由は、モノの先に必ずユーザーがいるからです。デザイナーの役割は、ユーザーに寄り添い、プロダクトとユーザーをつなげることにあります。冒頭に「デジタル技術を『浸透させること』とデザインがとても深く関係している」と記載しましたが、この『浸透させること』とは、デジタル技術をどのようにすればユーザーが使いやすく、魅力的になるかを考え実現することだと考えています。このことを踏まえると、プロダクト(サービス)開発にデザイナーが入ることの効果は、ユーザーに寄り添うことにより得られる「使いやすさ」や「心地よさ」等を含む「プロダクトの魅力」の向上であり、「プロダクト価値」の向上です。これは、プロダクトの売上にも直結し、ブランド価値や企業価値の向上にもつながります。
課題を設定し抽象度の高い企画段階から具体的なプロダクトを創造し、実現化に向けてユーザーがどのように使うかを考え検証することで、付加価値が高いプロダクトを生み出す、これがデザイナーの役割と考えています。
まとめ
DX推進において、どのようにデザインを活用するのかをデザインの考え方やデザイナーの役割、及びその効果などを解説してきました。デザインにおいて一番重要なことは、ユーザーを考えることです。少し付け加えるのなら、モノとユーザーをつなぐコト、これに尽きると思います。DX推進に限らず、様々なコトにデザインやデザイナーを活用してみてはいかがでしょうか。