1枚の絵が1,000の言葉に勝るように、プロトタイプは1,000枚の絵に勝る。
If a picture is worth a thousand words, a prototype is worth a thousand pictures.(原文)

— スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所
出典:HASSO Plattner, Institute of Design at Stanford: An Introduction to Design Thinking PROCESS GUIDE

Insight EdgeのLead Engineer 筒井です。Insight Edgeでは大小様々なDX案件において、開発プロジェクトの立ち上げを推進しています。DX推進においてシステム開発を行う場合、プロトタイプの開発が成功の鍵となる場合があります。本記事では、プロトタイプの役割とその重要性についてご紹介します。

プロトタイプとは

プロトタイプとは、これから作ろうとするモノの「試作品」です。ここでいう「モノ」が何らかのシステムのことだとすると、プロトタイプは、大きく以下のような目的で作成されます。

関係者間で認識を共有する

プロトタイプを作ることによって、企画者や開発者、あるいは利用者など、DX推進の関係者間において、そのシステムがどういうものであるか、何のために作るのか、といった共通認識と具体的なイメージを持つことができます。これにより、関係者間のコミュニケーションが促進され、多くの気づきやより良いアイディアが生まれます。

システムの価値を検証する

プロトタイプを作ることによって、利用者にとってそのシステムからどんな価値が得られるのか、そのシステムが利用者に受け入れられるのか、といったことを検証することができます。これにより、作ったものの使われない、DXとして価値の低いシステムにお金と時間をかけてしまうことを避けることができます。

プロトタイプの種類

プロトタイプにはその実現方法によって多くの種類があり、様々な軸によって分類されます。ここでは代表的な例をいくつかご紹介しますが、実際の利用時には、DXプロセスのフェーズや実施目的に応じて適切なものを選択したり、組み合わせたりする必要があります。

ペーパープロトタイプ

ペーパープロトタイプは、ペーパー、すなわち紙とペンを使って、作成するシステムのイメージを簡易的に表現したものです。それらを組み合わせて、実際の操作イメージまでを表現する場合もあります。準備が要らず、作成に時間がかからないメリットがある一方で、人によって異なるイメージを受け取ってしまう可能性もあります。

モックアップ(デジタルプロトタイプ)

モックアップは一般的にデザインツールやプロトタイピングツールを使って作成する、実物を模した画面や見た目のイメージです。主にUI/UXデザインの確認や検証に利用され、必要に応じて画面遷移やアニメーションまでを含めて作成する場合もあります。ペーパープロトタイプに比べて実物のイメージをより具体的に掴める一方で、実物に近いものであるほど、見た人が細かい部分(ボタンの位置や文字の大きさ、ちょっとした表示のズレなど)に気を取られてしまいがちになるため、適切な使い分けが必要です。

人力プロトタイプ(オズの魔法使い法)

人力プロトタイプは、システムを開発する代わりに、システム(内部)の挙動を人力によって実現するものです。利用者には人力で動いていることを伝えない場合もあります。例えば利用者によって与えられた動画から文字起こしを行うシステムを考えた場合、字幕テキストをAIが作成するか人が作成するかは、精度や速度に違いはあるものの、その機能の価値自体に違いはありません。そのため、価値があるかどうかわからないシステム開発にコストをかける代わりに、リスクを抑えてシステムの価値を検証するのに利用されます。

システムプロトタイプ

システムプロトタイプは、実際に作るもののうち、一部の機能やデザインを簡略化して作成された、実際に動くシステムのことで、狭義のプロトタイプと呼ばれることもあります。実際に機能やデザインの価値をほぼ実物のシステムを利用して検証することができ、より具体的なフィードバックを得られることが期待されます。デメリットは言うまでもなく、システム開発のコストが大きくなることです。DX推進のプロセスとしてはシステムとしての価値が確認された後、一般的には終盤で作成されることになるでしょう。

DX推進におけるプロトタイプ

DX推進においては、答えのない課題に対応するため、コンセプトの検証やデザイン・機能の検証など、そのプロセス中に様々な検証を行うことが一般的です。上記の例で見た通り、検証する対象によって、作るべきプロトタイプは異なります。例えば、DXのプロセスの初期段階においては、細かいデザインや機能よりもコンセプトやイメージが重要であり、プロトタイプを作り込むコストも低く抑えるために、ペーパープロトタイプのような形が適切と言えるでしょう。

また、認識の共有や価値の検証など、何のためにプロトタイプを作ろうとしているのか、という目的を常に忘れてはいけません。目的に対して必要以上のプロトタイプの作り込みは危険です。それは、単にコストが多くかかってしまうというだけのことではなく、それだけのコストをかけたプロトタイプに固執してしまう可能性があるからです。その結果として、価値検証の結果が想定と異なった場合や別の新しいアイディアが生まれた場合にも、プロトタイプから方向を変えることができなくなってしまっては本末転倒です。あくまで今検証したい最小限の要素を持ったプロトタイプを作ることが、DXを効率的に進めるコツと言えるでしょう。

そういった意味で、(状況によりますが)プロトタイプは惜しみなく捨てられるものを作るくらいの意識を持つことが重要です。「どうせお金をかけて作るなら、実際のシステムに流用できるようなものを作った方がトータルで安く済むのでは」、「製品の価値があるかどうかを検証するにはすべての機能が揃ったシステムでないといけない」と思う気持ちも理解できますが、その考え方では逆にプロトタイプから得られる恩恵が小さくなってしまうかもしれません。そもそもプロトタイプは捨てるものだ、という考えを根底におくと、いかに安く、早く、小さく作るか、ということにより目が向くのではないでしょうか。

「プロトタイプ」という言葉にご注意

プロトタイプに関連する用語は、人や環境、プロセス中のフェーズによって様々な使い方をされる場合があります。プロトタイプは関係者の認識を合わせるためにも重要ですが、まずは関係者の中で「プロトタイプ」という言葉がどういう意味で使われているか、という認識を合わせることが実はとても重要であることを覚えておきましょう。

まとめ

本記事では、プロトタイプの役割とその重要性をご紹介しました。Insight Edgeでは、住友商事グループ事業領域を対象に、DXプロジェクトを実施しています。多くのプロジェクトでは初期の企画段階から参画し、プロトタイプの開発を通じた価値検証の支援にも取り組んでいます。

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